「きれいになろう!」――。アイドルのようなピンク色のドレスをまとった女性芸人7人が、笑顔で語りかける。6月3日に発売された「食べる前のうるる酢」のテレビCMだ。
「うるる酢」は、「食事はまず野菜から食べる」という近年注目されているダイエット手法であるベジタブルファーストの考え方を基に、その名のとおり酢をベースにした健康飲料。美容や体型の維持に関心の高い女性、“美活女子”とも呼ばれる客層をターゲットとしている。ピンクのボトルに丸く大きな赤い文字、かわいらしいデザインが目を引く。
■薬用養命酒で培ったハーブのノウハウを生かす
ただ、ふとボトルに目をこらすと意外なことに気づく。「Yomeishu」のロゴだ。実はこの「うるる酢」、滋養強壮剤「薬用養命酒」を手掛ける、養命酒製造の新商品なのである。養命酒の得意とするハーブの美容・健康機能を生かして商品を開発。首都圏のコンビニエンスストアで売り出すという、同社としては初の試みにも挑戦している。
さらに養命酒製造は、「うるる酢」と同時期に、スーパー、酒店向けにも「林檎(檸檬)とハーブのお酒」という新製品を投入している。こちらも美容への効果を訴求する製品で、パッケージには鮮やかなピンクと黄色を使用し、フルーツやケーキのイラストも挿入。これまでの同社製品にない、華やかなイメージに仕上げた。
真っ赤な箱、武骨な茶色い瓶、「東洋医学の文献には、女性は7の倍数、男性は8の倍数の歳に体調の変わり目が訪れ・・・」と始まるテレビCM――。養命酒と聞けば、健康、長寿を意識する中高年層以上をメインターゲットとするあの商品を誰もが思い浮かべるだろう。
どちらかと言えば「お堅い」イメージがある養命酒製造が、若い世代を中心とした女性向けという華やかな市場へ商品を投入した背景には、いったい何があるのか。
「従来品とはかけ離れた『うるる酢』のデザインやテレビCMについては、社内でも賛否両論あったが、今までの養命酒とは180度違ったことをするべきだろう、という結論に至った」。養命酒製造の田中英雄常務は明かす。その心には、養命酒製造が抱える構造問題がある。
養命酒製造の直近の業績は堅調だ。前年度(2013年3月期)の決算は売上高120億円(前期比4%増)、営業利益17億円(同25%増)。どれだけ効率的に儲けているかの指標となる営業利益率は14%と高い。高齢化とともに、養命酒の愛飲者が増えているのに加えて、全国で同じ時期に実施していた広告宣伝を、地域ごとに販売が伸びる時期を精査して投入することで、大幅な費用削減も果たした。
■“養命酒一本足打法”に課題
ただ、売上高の“構成”には課題がある。実に9割を国内の「薬用養命酒」が占めている。社名のとおりではあるが、いわば“養命酒一本足打法”の収益構造なのである。
一方、近年は大手食品メーカーが相次ぎ健康飲料市場に参入しており、ライバルが急増している状況だ。ドラッグストアを主体とする販路の偏りも、リスクをはらんでいる。同社が実際にダメージを受けたのが、09年の薬事法改正直後。養命酒の主力販路であるドラッグストアでは、薬事法の改正に併せて商品の種類ごとに、売り場を細かく再構築した。この時期、養命酒の販売が低調だったことが祟って、10年3月期の売上高は、前年比で1割以上落ち込んだことがあった。
■新たな客層、販路の開拓が狙い
長年培ってきたブランド力を武器に、高齢顧客層に圧倒的な支持を受けている養命酒だが、安穏ともしていられない。一方で、健康飲料、酒類とも、大手メーカーが毎年多くの新製品を投入。特に健康、美容を意識する女性に向けた商品は年々増えており、競争が激しい分野である。
だが、養命酒がしっかり稼げるいまのうちに新たな分野への進出により、若年顧客層でもファンを増やすとともに、販路の開拓などで収益構造を多様化しておきたいという狙いだろう。厳しい戦いを強いられることは必至だが、それでも新舞台に挑まなければならない危機感も透けて見える。
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─情報元:東洋経済オンラインサイト様─