「薬を出すしか能がない」
どの診療科においても、薬の処方に関する基本的な原則は、
「薬の種類はなるべく少なく」
「効果のない薬剤は減らして中止に持ち込む」
というものです。多くの薬剤をカクテルや七味のように用いる「多剤併用」は、治療効果が低いとして戒められているのが、現代の精神医学の流れです。
しかし、精神科医に対しては
「薬を出すしか能がない」
「次々と新しい薬を出してくる」
「薬をなかなか減らしてくれない」
という批判があるのも事実です。わたし自身も、「こういう批判があるのも仕方がない」という認識を持っています。
理由は、二つあります。一つには、薬物療法の技量が疑われる一部の精神科医の存在です。初診からいきなり多種類の薬剤を大量に用いる、あるいはどんどん薬剤の種類が増える一方、などです。飲んでいる薬を減量・整理することから治療が始まるケースも珍しくありません。減量しただけで状態が良くなったという人も、実際には存在します。
二つ目の理由として、製薬会社によるキャンペーンに、医師が無批判に従っていることが挙げられます。「疾患喧伝」「病気の押し売り」(disease mongering)とは、病気と言うほどではない心身の不調を指して、「病気だから大変だ」と騒ぎ立て、「医者にかかったほうがいい」「治療しないと危険だ」だのと、やかましく説いてまわることをいいます。
製薬会社が医師、ひいては患者に与える影響力を知る材料として、一本の映画をご紹介します。スティーヴン・ソダーバーグ監督による「サイド・エフェクト(Side Effects)」です。
映画で見る製薬会社の影響力
2013年9月21日現在上映中であるため、ストーリーの詳細を書くことは控えます。この映画は、新型抗うつ薬・アブリクサの治験者として参加しているエミリー(ルーニー・マーラ)が主人公です。自殺未遂や睡眠時随伴症状などエミリーが苦しむ副作用が、この映画のミステリーを説く一つの伏線です。
興味深いのは、精神科医の関与です。もう一人の主役格である精神科医ジョナサン(ジュード・ロウ)はエミリーの主治医ですが、新薬アブリクサの治験にエミリーを登録することによって、多額の報酬を得ています。さらに製薬会社と深い関係を持つエミリーの元主治医ヴィクトリア(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の存在が、事件を複雑にします。
製薬会社と医師という視点で見れば、ジョナサンは製薬会社の手先、いわゆる「御用医者」と言えるかもしれません。ジョナサンは教育費のかかる長男がいるので、製薬会社からの報酬は甘い誘惑です。
新薬がうつ病を増やす?
厚生労働省の「患者調査」によれば,「うつ病・躁うつ病」の総患者数は,1996年に43.3万にすぎなかったのが、2008年には104.1万と、2倍以上の増加を示しています。抗うつ剤の市場規模は。1998年の145億円から2006年には870億円に膨れ上がっています。
うつ病患者の増加は、DSMなど操作的診断基準の普及もありますが、選択的セロトニン再取り込阻害剤(SSRI)が日本に上市されたことも大きな影響を与えたことは否定できません。
精神科医の冨高辰一郎先生も、著書の中で、1999年以降のうつ病増加について、次のように考察しています。
今後も、新規の向精神薬の発売は続いていくでしょう。1999年から14年経過した現代では、うつ病の薬剤性増加も頭打ちになってきているのかもしれません。ただ、別種の問題が生じてきています。それは、新薬の「データの信憑性」という問題です。
わたしのところにも、医薬情報担当者(medical representative)の方が、薬剤の情報提供としてさまざまなパンフレットを持ってきては、有効性を示した様々な論文データを紹介してくれます。
しかし、データが捏造されていた降圧薬「バルサルタン事件」で、日本の臨床研究データの信頼性は大きく失墜しました。疑惑は降圧薬だけではないと思うのは、仕方のないことでしょう。患者さんが心配するのももちろんですが医師のほうも、「このデータは信頼できるのか」と、疑念が生じるのも当然でしょう。逆に言えば、疑念もなくコマーシャル通りにバンバン薬を使ってしまったのも、「薬漬け」の要因です。
データを読み取る能力が医師にあることが求められますが、実際には「権威ある論文から」「○×教授監修」という裏付けに、頼ることになります。しかし、製薬会社のパンフレットに、長年にわたって頻回に顔出しで登場する医師は「御用医者」と疑い、客観的に自分の目でデータを見る能力が必要になります。
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http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishidamasaki/20130921-00028302/
─情報元:Yahoo!ニュースサイト様─