熊本県南関町の県立南関高の下田眞一郎校長(59)が、今春卒業する3年生31人分の全身像を制作中だ。
「南関高に通って良かったという思いを持ち続けてほしい」との願いを込め、生徒たちの姿を1体ずつ丁寧に再現。自らも定年退職を控え、最後の生徒たちを送り出す3月1日の卒業式で、一人ひとりに記念品として手渡す。
はにかんだ様子でほほ笑む男子生徒、両手で思いっ切りピースサインをする女子生徒……。校長室の一角には、高さ約15センチの真っ白な像が並ぶ。表情や立ち姿からは、生徒の個性が伝わってくる。
美術が専門の下田校長が、卒業生にオリジナルの記念品を贈り始めたのは同校に着任した2010年度。「南関」と「難関」をもじり、「難関突破」のロゴをデザインした携帯ストラップと、校舎をプリントした缶バッジを贈ったのが始まりだ。
すると、次の3年生から「僕たちは何がもらえるんですか」と尋ねられ、「期待に応えよう」と創作意欲に火が付いた。11年度は鉛筆で描いた似顔絵、その次は頭像を贈った。
今年度は「一人ひとりの個性をより表現できるものにしよう」と全身像に決め、昨年9月から制作を始めた。一人ずつ好きなポーズを取らせ、前後と横、斜め前から写真を撮影。細いアルミパイプや針金などで骨組みを作り、写真を見ながら、石塑粘土(石粉を原料にした粘土)を張り付けたり、ヘラで削ったりして豊かな表情を刻んでいく。1体あたりの制作時間は約10時間。休日には自宅で何時間も没頭し、出校前や仕事の合間にもヘラを握る。
「作り始めに写真を見るとき、『この子は1年生の時にこうだったよな』『この子も色々あったよね』と思い出す。生徒たちの内面が表情やポーズに表れ、それぞれの個性を感じる」
下田校長は、美術教諭の頃も含め同校に通算17年勤務し、「南関高への愛着はひとしお」。生徒たちと、高速道路の遮音壁などに壁画を描いたのも思い出だ。
同校は荒尾高との統合により、16年度末で閉校となる。記念品は南関高生として過ごした大切な証しだ。
全身像は、ミニチュアの卒業証書を添え、プラスチックケースに収めて贈る。
間もなく60歳を迎える下田校長は、3月末で定年退職する。「記念品作りを通じて、校長であっても生徒との結び付きを感じることができた。1体ずつ違う像を見て、それぞれがかけがえのない命を持っているということを胸に刻み、これからの人生を歩んでいってほしい」と願っている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140130-OYT1T00805.htm
─情報元:YOMIURI ONLINE(読売新聞)サイト様─