2014年7月3日木曜日

絵本専門店で聞いた! 「子どもに読ませるには怖すぎる絵本」4選


巷でひそかに物議を醸している「怖すぎる絵本」の存在をご存じでしょうか? 「絵本=子どもに読ませるもの」という常識を根底から覆すような心の闇を描いたお話から、大人が読んでもゾッとするような怖い作品まで、その種類は非常に豊富です。
今回は児童書専門店の「クレヨンハウス」と「ブックハウス神保町」の店員さんにおすすめしてもらった、珠玉の「怖い絵本」を紹介していきます。

■「長い人生、叶わない夢もあるよ?」と子どもに悟らせる異色作

絵本専門店「クレヨンハウス」の店員さんがおすすめしてくれた一冊目の絵本は、西村書店から出版されている『あやつり人形ピッパ』。
「この本は絵も怖いですけれど、私は最後の一文にゾワっとさせられるんです……」と言う店員さん。さっそく勧められるがままに読んでみました。
物語は【自我を持ったあやつり人形「ピッパ」が子ども部屋から飛び出して外の世界を冒険する】という『ト○ストーリー』的なよくある展開。しかし、ピッパの物憂げな表情や、悪人として登場する詐欺師の2人組の表情は、確かに子どもには怖すぎる気が……(笑)。
そして絵本の最後の一文には《……夢は夢。夢はかなうこともあればかなわないこともあるのですからね》と記されていました。
どのような展開でこの結びになっているのかは、ネタバレになってしまうので言えませんが、これは大人の自分が読んでも心にズシンと響くひと言です(笑)。無限の可能性を秘めた純粋な子どもたちに向かって「夢はかなわないかも」なんて夢もへったくれもないことを教えてしまったら、みんな目が点になってしまいますよね……。
この絵本を読んだ後、呆然とした私は「この作品はもしかすると子どもではなく、夢破れた大人に向けられたものなのかも……!」と勝手な深読みまでしてしまいました(笑)。
ちなみにこの絵本を描いたユーリア・グコーヴァさんは、ルイス・キャロルの名作『不思議の国のアリス』のさし絵も描かれています。誰もが知っているアリスの物語も、ユーリアさんのシュールな絵と合わせて読むとまったく違ったお話に感じられるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

■静かな詩と暗い絵で描かれる《眠りと目覚めの間の世界》

クレヨンハウスの店員さんにおすすめしてもらった二冊目の絵本は、ほるぷ出版から発行されている『終わらない夜』です。カナダの画家、ロブ・ゴンサルヴェスの16枚の絵とセーラ・L・トムソンの詩で構成されたこの絵本は、《眠りと目覚めの間の世界》を題材とした想像力をかき立てる内容となっています。
書店員さん曰く、「とにかく絵が不気味なんです」「幽霊なのか何なのかも分からない得体の知れないものが登場するので、お子様には怖すぎるかも……」とのこと。
実際に読んでみると、分かりやすいホラー映画のような怖さはありませんが、静かな言葉と暗い色調の絵が不気味な雰囲気を醸し出しています……。
ここで、この絵本の怖さが伝わってくる詩を一部引用してみます。
《想像してごらん……
夜、雪のシーツが
かたく、冷たい。
だれかささやく。
「ついてきて」》
《夜、月の光にうきあがる
物のかたち、人のすがた。
うしろをみると
だれかいる。》
……ちょいちょい出てくる「だれか」って誰なんでしょうか!? そんなことを考えながら読んでいると、静かな怖さがゾワゾワと背中を伝います。詩の内容は小さい子どもには少し難しいかもしれませんが、絵は十分に怖すぎるので読み聞かせた後は、しばらく夜のトイレに付き添うことになりそうです(笑)。
個人的な感想として、この絵本は怖いもの好きな大人が読むと楽しめそうだと感じました。

■京極夏彦が描く「容赦のない」の怪談

ここまで紹介した二冊を見て、「いくら怖いとは言っても所詮はこの程度か……」と思っている方もいるのでは? まだまだこれは序の口、ブックハウス神保町の店員さんが推薦してくれた本格ホラー作品『いるの いないの』は、今までの作品をはるかに上回る怖さです。
ストーリーは、おばあさんの住む古い家で暮らすことになった「僕」が、家の暗がりにいる「何か」の気配に四六時中そわそわし続ける、という典型的なホラーの形式なのですが、これが世界妖怪協会の評議員でもある京極夏彦さんの作品とあっては怖くないわけがありません。
ブックハウス神保町の店員さんが「大人でも背筋が寒くなるほど怖い絵本です……」とひと言だけささやき、私にこの本を勧めてきたこともうなずけます。
しかし私が特に恐怖を感じたのは、京極夏彦さんの文章よりも、むしろ町田尚子さんのさし絵です。「この絵本を読んで震えて叫べ!」という著者の気迫が伝わってくるような不気味な絵の数々は、大人でもトイレに行けなくなるほど……。特に最後のページの絵はトラウマ必至です。これを子どもに見せようものなら、最悪の場合、泣き叫ぶと思いますので注意してください。
これだけ言われても読んでみたい、という勇気のある方は、ぜひご自分の目で「いるのか」「いないのか」を確かめてみてください。

■[番外編]子どもに読ませたら泣かれました……
元祖アンパンマンの「これじゃない感」はある意味恐怖!?

最後に、匿名希望の某書店員さんが教えてくれた、これまでの作品とは少し違うテイストの絵本を紹介します。それは子どもが大好きなヒーロー『アンパンマン』です。
とは言っても、ここで紹介するのは元祖『アンパンマン』。みなさんが頭に思い浮かべるあのかわいらしくたくましい姿とはだいぶ違います。
この作品が収録されているのは、復刊ドットコムから出版されている『ふしぎな絵本 十二の真珠』。やなせたかしさんによる十二の短編とさし絵がまとめられた幻の初期作品集です。
この絵本に収録されている元祖アンパンマンは、ひどく太っていて全身焦げ茶色。顔もアンパンというよりは、まるで中年のおじさんのような風貌です。
勧めてくれた書店員さんは、自分のお子さんにこの本を読んであげたときに「こんなのアンパンマンじゃない!」「違うじゃん! こんなの違うじゃん!」と泣かれてしまったそうです……。
確かに、現代のアンパンマンになじみのある子どもたちが見たら、夢を壊されたショックで泣きたくなるであろうビジュアル。しかも物語の最後には、空を飛んでいるアンパンマンが高射砲陣地で撃ち落とされてしまうというまさかの超展開! そもそも「高射砲」と言われてもピンとこないし、夢いっぱいの子どもたちに読ませるには、少しシビアすぎる終わり方かもしれません(笑)。
とは言っても、あのやなせたかし先生の原点である十二編の短編はどれも読み応えのあるものばかり。アンパンマンを見て育った子どもが大人になったときに、「アンパンマンの原点はこの作品なんだよ」と教えてあげれば喜ぶことでしょう!
今回取り上げた怖い絵本は、どれも子どもに読ませるには少し気が引けるものばかりでした。しかし大人になった今読むと、子どもとは違った目線から新たな発見を楽しめるものです。
画家の魂が込められた絵の迫力と、簡潔で美しい言葉が紡ぐ独特の「怖さ」をあなたも感じてみませんか?

■今回取材にご協力いただいた書店

■子どもの本の専門店『クレヨンハウス』 東京店
地下鉄「表参道駅」から徒歩5分の場所にある絵本専門店。子ども向け絵本のほか、地下一階にはオーガニックレストランや野菜市場も併設しており、大人と子どもが一緒になって楽しめる空間となっている。
■ブックハウス神保町
本のメッカ、神保町にある唯一の児童書専門店。今回紹介した怖い絵本のほか、子どもに人気の「しかけえほん」や「うごくえほん」のコーナーも充実しており、ゆったりとしたスペースで素敵な本との出逢いを楽しめる。

http://news.livedoor.com/article/detail/9000043/
─情報元:ウレぴあ総研サイト様─