9月25日、警視庁サイバー犯罪対策課などは無職の男ら4人を逮捕し、12人を書類送検した。容疑は著作権法違反だ。
男たちは米国に本社がある動画投稿サイト「FC2」に映像を無断投稿(違法アップロード)し、 サイトの会員に見せることによって、多額の現金を得ていた。
この摘発劇を、なぜ、テレビをテーマにした本コラムで取り上げるのかというと、投稿されていたのは 『半沢直樹』(TBS)や『ルーズヴェルト・ゲーム』(同)、『あまちゃん』(NHK)など各局の番組だったからだ。
著作権侵害の被害を受けたのはNHKと民放キー局5社。つまり、全局がやられた。
容疑者の一人は「自宅のパソコンから、約4000回にわたって映像を投稿し、約240万円を得た」と供述しているという。
違う容疑者は約10ヵ月間に約1000万円を懐に入れていたと見られる。16人は他人の褌で簡単に荒稼ぎをしていたことになる。
今回の逮捕・送検を受けて、民放連の井上弘会長(TBS会長)はこう声明した。
「違法アップロードは、放送事業者などの経済的な利益を毀損し、コンテンツ産業の健全な発展を阻害する。 配信抑止に向けて、具体的な対策を講じていきたい」
これまでテレビ界はFC2などの動画投稿サイトに大きな関心を抱いていないように見えたが、いよいよ本腰を入れて対策に取り組むようだ。
背景にはスマホ時代が本格的に到来したこともあるだろう。各局はスマホやタブレットへの番組配信を次世代の収益の柱にしたいと考えているが、 FC2などに権利を横取りされてしまっては、たまらない。FC2はパソコン、スマホ、タブレットのどれでも見ることができる。
この事件に関心のない方は少なくないだろうが、著作権侵害が横行すると、視聴者全体が損をする。
番組が正当な形で見られなくなれば、テレビ局は収入が得にくくなり、制作費が縮小される。すると、今よりテレビがスケールダウンを余儀なくされてしまう。
「そもそもテレビは儲けすぎ」という人もいるだろう。事実、そうかもしれない。
だが、プライムタイムの1時間バラエティーの制作費は、せいぜい3000万円程度。この金額には出演陣のギャラや美術費、ロケ費、 BGMなどの音楽使用料まで、すべて含まれる。制作費が削減されれば、どうなるかと言うと、番組が今より、みすぼらしくなる。
「今だってテレビはつまらない」と失笑する視聴者もいるだろうが、面白くなくて見る人が減るのは仕方がない。 問題なのは違法アップロードによって番組が横流しされること。無断投稿とは、映画館内でスクリーン上の作品をこっそり撮影し、ダビングして販売する行為に近いだろう。
「テレビ局に金がなくなったら、アイディアで勝負すれば良い」という声もあるかもしれない。
しかし、アイディアもタダではないのはご存じの通りだ。企画者、構成者にも報酬が欠かせない。 面白い番組を作るには一定の制作費が要る。少なくとも犯罪行為によって制作費が減らされてしまうのは、見る側にとって迷惑な話なのだ。
テレビがつまらなくなって、自滅するのなら仕方がないが、犯罪行為によって先細ってしまうのは見るに忍びない。 業界が壊滅的大打撃を受けた前例もある。AV業界だ。映像がFC2などへ違法アップロードされ、タダで見られてしまうことにより、売り上げが急減。 年間3,000億円以上の損害を蒙っているとされている。AV女優のギャラも減る一方だ。
AV業界は対抗策として既にFC2などの監視体制を築き、違法アップロードを発見すると、ただちに削除を要求しているが、限界がある。 次から次へと投稿されるため、いたちごっこが続いている。
音楽業界も早々と違法アップロード、違法ダウンロードによって大ダメージを受けた。
レコード業界の売り上げは、ピークの1998年で約6,070億円もあったが、2013年には約2,700億円と半分以下に。
売り上げ減はネットの普及と軌を一にしている。AV業界と同様、横行する違法行為によって大打撃を受けていると見られている。
儲からなくなった音楽業界は冬の時代が続き、出口が見えない。
AV業界を震撼させ、テレビ界にとっても脅威となりつつあるFC2。本社は米国のラスベガスにあるが、サイト内のガイドはすべて日本語。
2000万人以上いるとされる会員も大半が日本人と見られている。日本人に向けたサービスとしか思えない。
サーバーが米国に置かれ、会社登記もラスベガスである以外、日本企業との違いは見られない。
経営者も大阪出身の日本人だ。映像の投稿者も大半が日本人らしい。
FC2は有料会員が支払った登録費の半額が動画投稿者に還元される仕組みとなっており、儲かるため、違法な投稿が後を絶たない。
投稿する側は逮捕者が相次いでいるが、FC2は本社もサーバーも米国にあるため、日本の捜査はおよばない。 捜査当局は同社の実態を調べ上げているようだが、現時点で同社が摘発されることはない。法には限界がある。
渾身の力で、後世にまで語り続けられる名ドラマや名曲を作りながら、勝手にコピーされてしまい、 制作者が僅かな金銭しか得られなかったら、不条理だろう。映像業界、音楽業界に人材が集まりにくくなる。
漫画界、活字界も同じ。違法な複製は作者を消耗する。大体、ドラマや音楽、漫画などがタダでばらまかれたら、作り手はどうやって生活すれば良いのだ?
テレビ局社員の一部にさえ違法ダウンロード容認派がいるが、自分たちが高給を食んでいるので感覚がズレているのではないか。 著作権侵害は制作会社やフリーランスなど立場の弱いクリエーターたちほど打撃を受ける。彼らには不動産業などテレビ局のような副業がない。
著作権法を強化せず、違法ダウンロードによってクリエイティブ業界が減益となったと見られる分、
国の文化予算を増やすべきだという意見もあると聞くが、どうだろう。
歌舞伎や落語など日本の伝統芸能は、お上の保護とは無縁の形で育った。
政府予算付きのロックなんて聴きたくないし、どこかの官庁から援助を受けたドラマなんて見たくない。(抜粋)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40587