性をテーマにした展示で昭和期に人気を博した「鬼怒川秘宝殿」(日光市)が、来場者の減少のため、今年いっぱいで33年の歴史に幕を下ろす。かつて「秘宝館」は全国にあったが、大半が既に閉館。現存するのは、鬼怒川秘宝殿を含めわずか2カ所となり、ファンは「文化の喪失だ」と惜しんでいる。 (大野暢子)
入り口で入館料の千円を払うと、お化け屋敷のような暗い通路に通される。江戸時代以前の性文化を紹介しているというコーナーに差しかかると突然、太鼓や尺八が鳴り響き、赤や緑の照明がちかちかと点滅。それを合図に、等身大に作られた精巧なろう人形たちが、なまめかしく動きだす。
三十年以上前に録音されたとは思えない、生き生きとした男女の会話も重なり、「生きているみたい」と驚く人も。人間の煩悩を真正面から取り上げながら、どこか情緒を感じさせる演出は、他のテーマパークと一線を画している。
人形の展示セットは、東京の大手映画会社で美術制作を手掛けた職人による本格的なもの。栃木県ゆかりの偉人がモデルの人形や、特産のかんぴょうを干している農家の風景が再現されたセットなど、地域色も豊かだ。
鬼怒川秘宝殿は一九八一年、全国的な秘宝館ブームに乗り、複数の観光関係者が共同で開業した。創業当時は連日ツアーバスが詰め掛け、多い時は一日千人以上の来場者でにぎわった。
しかし、開業後十年ほどでバブルが崩壊し、来場者は激減。同時期に施設は売却され、その後は所有者が何度も変わった。近年は老朽化が進み、人形の動きが止まったり、雨漏りしたりするように。人形制作や施設の建設にかかわった人の多くは既に亡くなり、修理は不可能だった。
創業時、経営者だった星勝美さん(65)によると、建設前、地元の婦人会から「風紀が乱れる」と反対の声もあったが、開業後は、その女性たちも足を運んでくれた。星さんは「おおらかな時代だった。昔はインターネットなどがなく、見たいものを見られなかったから、秘宝殿が新鮮だったのだろう」と懐かしんだ。
十一月の休日、ツーリング仲間と初めて訪れた仙台市の女性公務員(35)は、興味深そうに展示を見た後、土産売り場で春画のハンカチを発見し大笑い。「こんなに面白い場所が閉館するなんて」と残念がった。
◆展示内容に物語
「秘宝館という文化装置」の著書がある妙木(みょうき)忍・北海道大特任助教(社会学) 鬼怒川秘宝殿は、展示内容に物語があり、他の秘宝館とは一線を画していた。日本文化が生んだ施設の一つが失われていくことは残念だ。批判的に見る人もいるが、秘宝館という形で性と向き合う文化があったことも、大切な歴史的事実として記憶しておきたい。
<秘宝館> 性を視覚的に楽しむために造られた娯楽施設。1970~80年代、団体旅行ブームを背景に、北海道から九州までの温泉地などに誕生した。第1号とされる「元祖国際秘宝館」(三重県)や「嬉野武雄観光秘宝館」(佐賀県)など、ピーク時には約20カ所が営業。鬼怒川秘宝殿の閉館後は、静岡県熱海市の「熱海秘宝館」の1館のみとなる。
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─情報元:東京新聞サイト様─