世界に出るために「日本」にこだわる
2016年7月、東京・大手町に日本旅館「星のや東京」を開業する。「星のや東京」は、読売新聞東京本社の真向かいに建つ地下3階、地上18階建てのビルで、「塔の日本旅館」がテーマ。客室数は84室。オーナーは三菱地所で、星野リゾートは旅館の運営を担う。ちなみに客室単価は8万円から12万円を予定している。
「大手町に日本旅館?」と不思議に思われるかもしれない。東京という大都市のビジネス街に、日本旅館はあまりにも場違いかもしれないが、「だからこそ」だ。
「HOSPITARITY INNOVATOR」を事業ビジョンに掲げる星野リゾートにとり、まず東京で成功することがスタートだとし、そこを起点に海外の主要都市への展開を模索していく。競合である外資系ホテルの多くがひしめく中で、星野リゾートが世界に出ていくためには、彼らと同じ西洋ホテルの運営手法では絶対に勝てない。
バブル期にアメリカの大学で観光学を学び、シカゴやニューヨークで日系ホテルの開設や運営に関わり、ことごとく失敗するのを間近で見てきた。失敗の原因は、西洋ホテルと同じものを目指していたこと。グローバルの中で、日本の会社が運営するならば「どう日本なのか」が問われるのだ。競合が絶対に成し得ない宿泊の形態を提案しなければならない。
日本旅館の魅力とは、日本特有の文化が凝縮された空間だということ。床で寝て、箸で日本食を食べる。何よりも、ロビーもレストランもパブリックな空間でプライベートは部屋にしかない西洋ホテルとは違い、日本旅館は玄関に入った瞬間からセミプライベートが始まる空間の使い方に大きな違いがある。旅館には宿泊客しかいないから浴衣で滞在したり、知らない者同士が裸で大浴場に入ったりもする。このような文化体験ができる宿泊施設は日本旅館にしかない。
世界の大都市を見れば、日本車が走り、寿司屋があり、日本のもてなしやホスピタリティへの関心と信頼も高い。料理にはフレンチやイタリアンや中華などバラエティがあるのに、なぜ宿だけが、西洋ホテルだけなのか。「今日は日本旅館に泊まろう」という選択肢があってよいはずだ。日本のもてなしが味わえる宿に泊まろうという需要は必ず世界にある。
「星のや 東京」の完成予想図
世界のリゾート業界は今、すべてのブランドが出尽くし、新しいコンセプトが求められている。だからと言って、必ずしもこれまでになかった全く違う斬新なアイディアばかりがいいとは思わない。私は日本旅館の魅力、その価値を「再定義」し、そこから新たな需要を創造するマーケティングが重要だと考えている。それを実践するのが“国際的な大都市にある日本旅館”の「星のや東京」だ。
価値や需要を創造する「マルチタスク」と「フラットな組織文化」
サービス業である星野リゾートにとって大事なのは何と言っても「人材」、そしてそれを支える「組織」だ。私は経営者として、モチベーションマネジメントを最も重視している。
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─情報元:ダイヤモンド・オンラインサイト様─