次世代エコカーの本命と目される燃料電池車(FCV)の市販化が2年後に迫っている。トヨタ自動車、ホンダは2015年にも量産車を市場投入する見通しだ。
FCVはタンクに積んだ水素と空気中の酸素から化学反応で電気を作り、モーターで走る、電気自動車(EV)の一種だ。排出するのは水のみで、環境汚染物質をいっさい出さないため、「究極のエコカー」とも呼ばれる。ガソリン車並みの3分で水素をフル充填でき、水素満タン状態での航続距離も500~800キロメートルと200キロメートル程度のEVに比べて長い。
■水素ステーションの設置が進む
FCVの普及に向けては、ガソリン車のガソリンスタンドに相当する水素ステーションの整備が欠かせない。FCVは航続距離が長いとはいっても、全国に水素供給拠点のネットワークがないと、消費者は購入を躊躇してしまう。そこで、石油会社などは今年から15年にかけ、国内の都市部を中心に水素ステーションを100カ所程度建設する計画だ。
本格的なFCV時代の到来に向け、商機を狙う企業が動き出している。バルブ国内最大手のキッツ(本社・千葉市美浜区)もその1社だ。キッツはFCVに水素を供給する水素ステーション向けのバルブを国内で初めて開発した。
キッツのバルブがなかったら、3分という水素充填時間は実現できなかったかもしれない。水素ステーション1基には、水素の通り道を開閉するために50~70個のバルブが使われる。FCVに充填する700気圧という「前代未聞の超高圧」(FCV関係者)の水素を高速で通すには並みならぬ技術力が必要で、水素ステーション用のバルブは、従来、外資メーカーによる寡占状態だった。
そこへ、キッツは昨年7月、新開発の水素ステーション用バルブで切り込んだ。外資メーカーのバルブはニードルバルブという形状なのに対し、キッツの新製品はボールバルブ。ニードルバルブに比べて同圧力で10倍の水素を送り出せるため、水素充填にかかる時間をおよそ10分の1に短縮できる。さらに、価格を1個35万円と、外資メーカーの約半分に抑えた。すでに12年度に実証用水素ステーション4カ所に採用されるなど、導入が急速に広がっている。
キッツはもともとバルブでガス業界との付き合いがあり、エコカー関連ではバスやタクシーなどの燃料として使われる圧縮天然ガス(CNG)ステーション用のバルブを販売していた。その販路や技術的なノウハウを生かして、今回の水素ステーション用のバルブが生まれた。
■全社プロジェクトで取り組む
キッツは水素ステーションとCNGステーション向けのバルブ事業を「CLESTEC PROJECT」と名付け、同社初めての全社プロジェクトに位置付けた。開発・設計はキッツ本体が手がけ、製造は半導体製造装置など精密なバルブを得意とするキッツエスシーティーと独子会社のペリンが行い、販売はこの3社が共同で行う。
キッツグループでは各社が独立独歩で歩んできたが、今後の拡大が予想されるエコカー分野においてはグループで連携。CLESTEC PROJECTリーダーの石原茂樹氏は「水素ステーション向けバルブで2015年に国内シェア50%を狙う。ドイツ、米国、韓国といった環境意識の高い国にも展開したい」と意気込む。数年後、エコカー向けのビジネスがキッツの新たな事業柱に育っているかもしれない。
http://news.livedoor.com/article/detail/7592484/
─情報元:東洋経済オンラインサイト様─