外貨購入やエネルギー事業、震災復興などさまざまな名目で投資話などを持ち掛けられ、金をだまし取られる詐欺被害が後を絶たない。
役割の異なる複数の人物から入れ替わり連絡が入り、甘言にのせようとする「劇場型勧誘」で、国民生活センターはこうした事件を「買え買え詐欺」と命名、注意を呼びかけている。「リスクがないと思い込んでしまった…」。被害者の証言から、巧妙で悪質な手口が浮かぶ。
■突然の勧誘
滋賀県近江八幡市の男性(73)は昨年4月、聞き慣れないアフリカ・スーダン共和国の通貨「スーダンポンド(SP)」を買わされ、420万円をだまし取られた。
端緒は前月にあった。「『わかば貿易販売』という会社からSPの購入申込書が届いたら譲って」。証券会社の社員などを名乗る複数の人物から、唐突にこんな電話が相次ぎ、間もなく「わかば貿易販売」から購入申込書が届いた。添付のパンフレットには「発展が約束された国スーダン」などと、夢のふくらむ文言が並んでいた。
その後、わかばの社員を名乗る男から電話があり「経済産業省の独立行政法人である弊社だけが、SPの取り扱いを許可されている」と説明を受けた。
■二の矢
同社から男性へのアプローチがあった後、謀ったかのように、再び“証券マン”らから電話が相次いだ。「申込書は来ましたか? 譲ってくれれば謝礼を渡す」。そろって数十万円の支払いを提示してきた。
しばらくして、大手だという「アサヒ証券」のサカモトという男から電話がかかり、他社の倍額を申し出た。男性は当初、全く興味がなかったが、人懐っこい話しぶりと高額提示にひかれ、現金を事前に届けてもらう約束で、25口分(1口16万8千円)計420万円の購入申し込みを代行した。
ところが、わかば側は、SPが人気で売り切れる恐れがあることを理由に、先に現金を渡すよう要求。サカモトに相談したが「金はすぐには用意できない」と断られ、結局男性が立て替えることになった。男性は、自宅を訪れた「わかばの社員」に420万円を手渡し、領収書と50SP紙幣25枚を受け取った。
■被害届け出も断念
男性は不安にかられ、後日、わかばが経産省所管の独法かどうかを同省に照会。嘘だと判明し「やられた」と気付いた。
滋賀県警近江八幡署へ出向いたが「対価として紙幣を受け取り、商取引は成立している。詐欺としての立件は難しい」と言われ、被害の届け出を断念。その後、電話や訪問はぱったり止まった。捜査関係者は「全国で多発している状況を把握していれば、詐欺だとすぐに判断できたはずだが…」と同情する。
「いつの間にか自分には一切リスクがないと思い込んでしまった。『そんなうまい話があるの?』と何度も警告をくれた妻に被害を告白するのはつらかった」と振り返る男性。同居の息子には、まだこの顛(てん)末(まつ)を打ち明けられないでいる。
国民生活センターによると、一つのストーリーに沿って複数の人物からアプローチがある「買え買え詐欺」の被害は、平成21年ごろから増加。昨年は約6500件の相談が寄せられたが、払い戻し手続きが成立したケースは1件もない。
同種犯罪は各地で続発している。奈良県警は、SPの購入資金名目で奈良市内の70代女性から現金約945万円をだまし取ったり、仲間に犯行を持ち掛けたりしたとして、昨年10月から今年3月にかけ、千葉県船橋市の男2人を逮捕した。
なぜ被害は相次ぐのか。立正大心理学部の西田公昭教授(犯罪心理学)は「嘘のような話も、いろんな人から繰り返し聞かされれば信じてしまう」と指摘。「社会は『だまされる方も悪い』と被害者に冷たく、法律にも『個人は合理的に判断する』という前提があるが、むしろ『人はだまされやすい』との認識で、厳罰化や消費者教育を進めるべきだ」と訴えている。
http://news.livedoor.com/article/detail/7578506/
─情報元:産経新聞サイト様─