2014年3月27日木曜日

ご褒美は成績アップに効果があるのか?

 近年、日本の所得格差は拡大しており、それに伴って子ども達の教育機会の格差が進行していることが報告されている。一方で、低所得世帯の子供たちに教育機会を提供する動きが活発になっている。低所得世帯の子供たちの学力を上げるためにはどのような政策が効果的だろうか?低所得世帯の生徒たちのテストスコアを向上させるためにアメリカで実施された実験研究を紹介し、日本ではどのような方策が有効であるか考察する。
 2009年度(平成21年度)文部科学白書によると、近年「就学援助」を受ける児童が増加している。就学援助とは、学校に通うために必要な費用の負担が困難と考えられる保護者に対する援助で,生活保護法に規定する要保護者とそれに準ずる程度に困窮していると認められる準要保護者を対象とする。白書によると、就学援助を受けている生徒の割合が高い中学校では学力テストの正解率が低く、また、世帯収入が低い家庭ほど小学生の学力テストの成績が悪いことが報告された。
 以上の結果は、地域間の貧富の差が中学生の学力に影響していること、そして地域だけでなく個々の家庭の経済状況も子供の学力に直接影響していることを示している。東京大学の小林雅之教授らは、親の所得が高校卒業後の進学にも影響することを明らかにしている。

親の所得で進学率に2倍の差

 2012年の調査結果によると、所得が400万円以下の家庭では、子供が国公立大学に進学する割合は7.4%、私立大学に進学する割合は20.2%であるのに対して、所得が1050万円以上の家庭では、子供が国公立大学に進学する割合は20.6%、私立大学に進学する割合は43%であった。
 所得が400万円以下の家庭と1050万円以上の家庭では、子供の大学進学率に2倍以上の差があることになる。調査は2006年と2012年に実施されたが、両方の調査において私立大学進学率と所得に強い相関関係があった。国公立大学については、06年の調査では年収と進学率に相関関係がなかったが、12年の調査では強い相関関係が見られるようになった。
 授業料が比較的安く手が届きやすい国公立大学への進学にも親の所得が影響し始めたことは、懸念せざるを得ない。
 教育格差は、次世代にも経済格差が継承される貧困の負の連鎖へとつながる危険性が高い。なぜならば、学歴は将来の収入に大きな影響を与えるからだ。2012年就業構造基本調査によると、45歳から49歳の中卒の就業者の73%が年収400万円以下であるのに対して、高卒の場合年収400万円以下は全体の63.7%、大卒の場合の人はわずか26.5%であった。
 一方、45歳から49歳の中卒の就業者で年収1000万円以上はわずか1%、高卒の就業者でもわずか1.4%であるのに対して、大卒の場合は全体の12.6%が年収1000万円以上であった。マセマティカ政策研究所のステイシー・デイル研究員と米プリンストン大学のアラン・クルーガー教授は、アメリカではどの大学に行ったかはその後の収入に大きく影響しないことを明らかにした。
 慶應大学の中室牧子准教授らの研究によると、日本においてもどの高校に行ったか、どの大学に行ったかは所得にあまり影響していない。重要なことは高校や大学を「卒業する」ことである。貧困の負の連鎖を断ち切るためには、低所得世帯の生徒達の学力を向上させ、高校や大学への進学率と卒業率を高めることが、大変重要な政策課題である。
 日本よりさらに所得格差が大きいアメリカは、低所得者層の子ども達の学校教育問題に大きく頭を悩ませてきた。低所得者層の子ども達は一般的に学習意欲が低く、高校を退学する割合が高い。

そもそもやる気がない子供たち

 米シカゴ大学のジョン・リスト教授と、日本でも『ヤバい経済学』の共著で知られるスティーヴン・レヴィット教授は、シカゴの低所得地域の小学校、中学校、高校の7000人以上の生徒を対象に実験し、どのようにしたら学力テストのスコアを上げることができるのかを検証した。実験では、米大手ヘッジファンド運用会社シタデル・インベストメント・グループの創業者ケネス・グリフィンの経済的援助を受けた。
 学力テストの成績が悪いことには2つの原因が考えられる。1つはそもそも学力が低いこと、もう1つはやる気がないことである。就学援助を受けている生徒の割合が高い中学校では学力テストの成績が悪いという文部科学白書の報告は、低所得層の子ども達が多い校区では生徒のやる気が低いことに原因がある可能性も考えられる。
 つまり、学力はそれほど低くないが、やる気がないのでテストでいい成績をとれていない。やる気がない理由としては、テストでいい成績をとることに意味が見いだせないことが大きいと思われる。周りの生徒や大人が大学に行かない環境では、テストでいい成績をとって大学を目指すことよりも、なるべく早く働き始めて早く収入を得たいという欲求が高い可能性がある。

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─情報元:日経ビジネスオンラインサイト様─