2016年7月13日水曜日

長く売れ続ける「定番」を狙う デザイナー・小関隆一氏のモノ作り哲学とは?

 独立した初年度の売り上げは微々たるもの――。
 2011年3月、その商業デザイナーは、それまで10年以上も勤めたデザイン事務所を辞め、独り立ちを決めた。その直後、東日本大震災が起きた。日本中が自粛ムードに包まれる中、東京の片隅でひっそりと開業した。
 あれから5年。「グッドデザイン・ベスト100」や「iF Design Award」など、さまざまなタイトルを獲得するとともに、国内外の有名インテリアショップなどにも並ぶ人気商品をデザインする。
 例えば、東京大田区の中小企業、太洋塗料とコラボレーションした“はがせる”水性塗料「マスキングカラー」は、フランス・パリで毎年1月に開かれる欧州最大級のインテリア&デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」に今年初出展。バイヤーから高い評価を受け、海外からの引き合いが止まらない。1本1600円(Sサイズ、38ミリリットル)と安くはないが、国内でも東急ハンズなどで人気を呼び、2013年の発売から累計で2万本以上を売り上げている。
国内外で売れ続けている「マスキングカラー」国内外で売れ続けている「マスキングカラー」(写真提供:RKDS
 男の名は小関隆一(42)。東京都新宿区、早稲田大学からほど近いレトロなマンションの一室にスタジオを構える。小関が手掛ける商品の特徴は、シンプルで分かりやすい、それでいて機能的なデザインだ。多くの商品は人気を博し、デザイナーとして順風満帆のように見えるが、「まだまだこれから。もっと勝負を挑んでいく」と息巻く。
 小関は言う。「世の中にモノが溢れたこんな時代に、さらにモノを作る意味や目的は一体何でしょうか?」
 自らの生業を否定するような発言をする真意は、モノ作りへの危機感である。
 「メーカーが新製品を出すのはビジネスを進める上で必要であるのは変わりないが、その製品が本当に世に出すだけの意味や価値があるかは常に意識しなければなりません。製品の立ち位置や企業の戦略ももちろん大切ですし、社会の動向やタイミング、スピード感も絡み合います」
 多くのメーカーに技術力はあるけれども、残念ながらそれを価値あるものに変える発想力は乏しい。そうであれば、自分がデザイナーとしてその発想力を提供すればいいのではないか。小関はそう考えている。
デザイナーの小関隆一氏。1973年、東京都生まれ。1998年に多摩美術大学美術学部デザイン学科インテリアデザイン専修卒業後、I.D.K.デザイン研究所に在籍して喜多俊之氏に師事。2011年にリュウコゼキデザインスタジオ設立デザイナーの小関隆一氏。1973年、東京都生まれ。1998年に多摩美術大学美術学部デザイン学科インテリアデザイン専修卒業後、I.D.K.デザイン研究所に在籍して喜多俊之氏に師事。2011年にリュウコゼキデザインスタジオ設立
 今でこそ気鋭のデザイナーとして注目を集める小関だが、実はデザインの道に進むきっかけは「勉強が嫌いだったから」という消極的な理由だった。一体どのような半生を歩んできたのだろうか。
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