2012年6月9日土曜日

メディアが醸成した「放射能ストレス」(上) - 感情的な報道の生んだ人権侵害 : GEPR


GEPR掲載のアゴラ研究所フェロー石井孝明の論考を転載する。


「福島の原発事故で出た放射性物質による健康被害の可能性は極小であり、日本でこれを理由にがんなどの病気が増える可能性はほぼない」。


これが科学の示す事実だ。しかし、放射能デマがやむ気配がなく、社会の混乱を招いている。デマの発信源の一つがメディアの「煽り報道」だ。 放射能の正確な事実の伝達は積極的に行われるべきだ。また原子力発電について賛成、反対について自由な発言をして、エネルギーの未来を考えることは意義深いことだ。しかし不正確な情報やデマの拡散は他者を傷つけ、自分の社会での信用も失わせ、社会に混乱を広げる。



さらに「煽り報道」はメディアそのものを自壊させる行為だ。日本国民の大多数は賢明で冷静であり、報道の真偽を見極めている。放射能をめぐる誤った煽り報道はそれを発する記者個人、媒体、メディア企業、さらには報道全体への不信を生み出している。報道への信頼の崩壊は、メディアの存立基盤がなくなることであり、それは自由な報道が前提になる民主主義体制にも悪影響を与える。

デマを拡散した人を、過度に糾弾する意図はないが、その反省をうながし、これまでの事実を示し、誤った報道、さらに情報洪水への対策を考える。

「福島の奇形児」スクープ?

「お待たせしました。福島の新生児の中から、先天的な異常を抱えて生まれて来たケースについてスペシャルリポート&インタビュー。スクープです。賛否はあるでしょうが、勇気あるカムアウトした当事者には温かいエールをお送りください」。

昨年12月、インターネット上の短文ブログ・ツイッターで異様な書き込みが行われた。これはジャーナリストの岩上安身氏によるものだ。福島の原発事故と新生児の異常は無関係であるにもかかわらず、関連づけるかのような書き方をしている。しかも人の障害を報じることにまったく自粛の姿勢がないことに驚く。

念のために説明すれば、先天的異常は新生児に一定の確率で起こる。原爆の医療記録によれば、妊娠中に一瞬で数100ミリシーベルト(mSv)の強い放射線を浴びたときに、胎児に影響が出た例がある。現在の福島では、自然放射線に加えて年数mSvの放射線量の増加しかないので、放射線による障害など起こるわけがない。

この「スクープ」には批判が殺到し、岩上氏はこの書き込みを削除。同氏はその後も横浜で福島から飛んできたストロンチウムが見つかったなど、誤報を繰り返し流して批判を浴びた。

福島の原発事故では、放射能と原発をめぐる情報があふれた。ところが、それらは玉石混交で危険を過度に煽るおかしなものが多かった。その発信源の一つが、岩上氏らが活動の拠点にするフリーランスのジャーナリストの集まった「自由報道協会」(上杉隆代表)だ。

この団体は危険を煽る人々、政治主張を重ねる反原発派の人を繰り返し登場させた。今は「誰でもメディアの時代」だ。映像またブログ記事が、インターネットを使い容易に拡散する。

同協会は昨年7月にクリス・バズビーという人物の記者会見を主催した。彼は「福島第一原発の100キロ圏内で数10万人単位のがん患者が出る」と予告。この情報が拡散し、不安を広げた。彼はECRR(被曝リスクに関する欧州委員会)という反核私設団体の幹部にすぎない。

しかも、このバズビーなる人物が日本人向けに数万円のサプリ、放射能検査を売り込んでいたことを日英のメディアが暴いた。すると失踪してしまった。

また反原発活動家の広瀬隆氏らは同協会で昨年8月記者会見し33人の行政、東電関係者を「子供たちの健康を害した非人道的行為による業務上過失致死傷罪」で刑事告発したと発表した。ただのパフォーマンスだが、その中には山下俊一氏(福島県立医大副学長)などの医学者も含まれていたのは問題だった。

山下氏は「100mSv以下の被ばくと発がんには因果関係がない」という学会で認められた説に基づいて、事故の対応策を福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーとして勧告した。それに対して、広瀬氏らECRRの説を根拠に刑事告発したのだ。

この後に医学界、原子力や放射線の専門家の間で、放射能や原発問題などの発言が自粛される空気が醸成されたという。医師や学者は他者からの攻撃には慣れていない人々で、刑事告発騒ぎなどを見て、萎縮するのは当然だ。広瀬氏の行動は言論や学問の自由を圧殺する危険な行動だ。それに自由報道協会は加担したのだ。

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http://agora-web.jp/archives/1462520.html
─情報元:アゴラサイト様─