今日のアップルの躍進を支えたのが、クールで洗練された商品とスティーブ・ジョブズの圧倒的なカリスマ性にあったことには異論の余地はないだろう。しかし、驚異的な成長の影には、これまでほとんど語られることのなかった、意外な側面があった。アップルによる日本企業が支配される現状を詳らかにした『アップル帝国の正体』の著者、後藤直義氏と森川潤氏に“帝国”の知られざる内面とその行く末を聞いた。
「アップルの何よりの強みは、その徹底的な生産管理。一切の妥協を許さず、ひたすら効率化を突き詰めたことが今の拡大の要因であるのは間違いありません。ジョブズが掲げたビジョンを実現するためには関連会社との軋轢や業界慣例との衝突も厭わずに突き進むさまは、さながら獰猛な肉食獣のようです。そして、その“獰猛さ”の旗ふり役こそが現CEOのティム・クックでした。サプライチェーンマネージメントの天才と呼ばれた彼をなくしては、日本企業の植民地化も含めて、今のアップル帝国はなかったでしょう」)(後藤氏)
「今年の初めに現地取材を行った際にジョブズとクックの家を訪ねたのですが、本当にその違いは印象的でした。決して大きくはなくてもセンスがちりばめられているジョブズの自宅に対して、我々が住むような規模で見た目も極めて簡素なクックの自宅。よくも悪くもジョブズとはまったく異なるタイプの人間が現在のアップルを率いているのだなと実感させられました。ちなみにデザイン面を統括している上級副社長のジョナサン・アイブの自宅は完全にお城でした(笑)」(森川氏)
生前にジョブズが「テレビを“再定義”したい」と開発に意欲を燃やしてきた「iTV」、かねてよりその構想が複数のメディアで伝えられてきた腕時計型ガジェット「iWatch」など新たな製品の発売も現実味を帯び、今後は中国という巨大市場向けに、性能を伸ばすことよりも価格を抑えることに重きを置いた、実質的な廉価版iPhoneの投入も備えているというアップル。確固たる支配構造を築いたうえで、さらなる拡大を進めているように見えるが、“帝国”は果たして今後も繁栄を続けていくのだろうか。
「これは今回の取材を通じて改めて強く感じたのですが、革新的な取り組みを行うために必要なのは、企業の規模や売り上げではなく、最後はそこにいる人材の信念。そういった意味では今のアップルには十分な規模や利益はあっても、ジョブズのような人並みはずれた信念で行動する人間はもういない。クックは優秀な管理者ではあっても、これまでにないものを生み出すというタイプではない。ジョブズが起こした“革命”と同様のインパクトを持つイノベーションをこれからも継続していくのは間違いなく難しいです」(後藤氏)
すでに圧倒的な支配網を築いたかに思えるiTunesに関しても懐疑的な見通しを示す。
「アップルの革新的な製品はすべてジョブズがいたからこそできたと思いますが、こと音楽に関しては並々ならぬ彼の思い入れがあったからこそ突き進んでくることができた分野でした。普通、音楽コンテンツはレコード会社にとっては最大の財産で、もっとも手放したくないもののはず。そこをこじ開けたのはジョブズの情熱に他なりません。iTunesはとても質の高い仕組みではありますが、だからといってジョブズ以外の人により天下をいつまでも保ち続けることは容易ではないと思います。日本やアメリカではまだ脅かす存在は現れていないですが、ドイツやフランスなどではすでにスポティファイという聴き放題のストリーミングサービスがシェアを広げてきいますので、この先もどうなるかわかりませんね」
http://news.livedoor.com/article/detail/7913713/
─情報元:日刊SPA!サイト様─