2013年8月7日水曜日

わずか36人の特殊救難隊 最強「海猿」の素顔を追う


「先頭に立って領土、領海、領空を断固として守り抜く決意だ」。
 自民党の圧勝に終わった参院選。そのさなかの17日、安倍晋三首相は石垣海上保安部(沖縄県石垣市)を訪問、海上保安官をこう激励した。8月1日付で海上保安庁長官に佐藤雄二海上保安監(59)を充てる人事も決まった。約1万2千人の海上保安官を統括する制服組トップを、初めて長官に昇格させる人事だ。制服組で精鋭部隊といわれるのが、わずか36人の特殊救難隊。「海猿」と呼ばれる海上保安庁の潜水士の中でも最強の組織とされ、船の転覆や火災、毒劇物流出など最も過酷な現場に派遣される海難救助の「最後の砦(とりで)」だ。

 5月13日午前2時40分。千葉県・浦安沖に停泊中の貨物船から海上保安庁に救助要請が入った。「舵機(だき)室から出火した。救助願う!」。貨物船は液化石油ガスを積んでおり、もし引火すれば大惨事は免れない。現場に向かうよう指示を受けたのは、東京・羽田に拠点を置く特殊救難隊だ。


 船舶火災は、特殊救難隊しか対応できない高度な技術を要する。現場に急行したのは中澤克元隊長(39)率いる特殊救難隊第1隊。巡視艇「やまぶき」を貨物船に接舷させて乗り移り、乗組員8人の無事を確認。しかし、舵機室は煙が充満していた。それでも隊員は、消火のため舵機室に入った。

■精鋭中の精鋭「失敗許されぬ」
 5月13日未明の東京湾。この日は曇天で月明かりもなく、上空には漆黒の闇が広がっていた。千葉県・浦安沖の貨物船から救助要請を受けた海上保安庁特殊救難隊第1隊の隊員は、火元の舵機(だき)室を探り当て、消火のため扉を開けた。
 室内には煙が充満し、視界は遮られていた。しかし、隊員はあわてることなく赤外線センサーや温度計を用いて、内部の状況を確認。慎重に避難口のハッチを開放し、送風機で煙を外に逃がした。燃えていたのは、段ボール。隊員は放水して消火した。出動指示から任務完了まで約3時間。現場が東京湾上ということを考えれば、極めて手際のよい早業だ。
 この現場では負傷者はなく、被害も最小限に抑えられた。しかし、より過酷な現場はいつやってくるか分からない。現場で指揮をとった第1隊の中澤克元隊長(39)は力を込める。「ひとつの現場を解決して満足していては、それ以上の発展はない。どんな現場でも、失敗は許されないんです」

◆全国どこでも出動
 海難救助の「最後の砦」といわれる特殊救難隊は、第3管区海上保安本部(横浜)に置かれている全国で唯一の組織だ。東京・羽田に基地を構えており、船舶火災や毒劇物の流出などの深刻な事故が発生した場合、現場が全国どこであっても航空機などで出動する。現在は6人編成の隊が計6隊あり、交代で勤務する。隊員の目印は、オレンジ色の出動服。これは、海上保安官の中でも特殊救難隊員しか身につけることができない。この出動服は隊員にとって誇りでもあり、任務遂行への決意を示すものでもある。
 特殊救難隊員になるにはまず、「海猿」と呼ばれる海上保安庁の潜水士になることが必要だ。だが、潜水士も全国の海上保安官のうち約120人しかいないという難関だ。
 潜水士は、体力検査を課す選考会で選抜する。特殊救難隊が所属する3管では例年約20人が希望するが、潜水研修に進めるのは2人程度だ。研修では、水中で最低2分半息を止める、数キロの重りを持って立ち泳ぎをするなどの訓練を2カ月にわたって行う。そして筆記試験を経て国家資格を取得、晴れて潜水士となる。
 特殊救難隊員は、この潜水士の中から希望と適性によって選抜される。「潜水士の中からさらに選ばれた彼らは、精鋭中の精鋭なんです」。隊が所属する羽田特殊救難基地の川口修基地長(50)は説明する。

◆オレンジ色の誇り
 24時間365日、救助要請に対応する。いつでも出動できるよう基地には必ず1隊が順番で詰め、午前9時から翌朝の午前9時までの間、出動に備える。
 当直勤務の隊員は、常に緊張を強いられる。だが、救急救命士の資格を持つ第2隊の小野泰弘隊員(32)は「緊張のあまり、現場で一点しか見えなくなるのは危険。気持ちを引いて視野を広く持つことが重要です」と話す。

 当直勤務でない隊も、緊張の糸を完全には切れない。通常はプールや港で訓練を行って体力維持に努めているが、当直隊に出動の要請がかかると、すぐに次の隊が基地に呼ばれる。
 危険と隣り合わせの世界。両親に心配をかけぬよう、詳しい業務内容を今も知らせていないという隊員もいる。それでも、オレンジ色の出動服を着た隊員たちの表情に、悲壮感はない。「一人でも多くの人を救助したい」(小野隊員)という前向きな純粋さが、「最強の海猿」の原動力だ。

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http://news.livedoor.com/article/detail/7924728/
─情報元:産経新聞サイト様─