米IBMは12月17日(現地時間)、今後5年間で人々の働き方や生活を変える可能性を持つイノベーションを発表した。これは毎年末にアナウンスされる「IBM 5 in 5」と呼ばれるもので、今年で8回目となる。
2013年度版は、IBMのスーパーコンピュータ「Watson」に代表されるコグニティブ・システムの時代が到来したことによって、機械が自ら学習、判断し、より自然かつパーソナライズされた方法で人々と関与することで、あらゆるものが学習するようになるという見解を検証している。具体的には、以下の5つの予測を示した。
- クラスルームが生徒について学ぶ
- 地元での買い物がオンラインに勝る
- 健康維持にDNAを活用する
- デジタルの番人がオンラインユーザーを保護する
- 都市が市民の生活を支援する
クラスルームが生徒について学ぶ
将来のクラスルームでは、全生徒について学習するためのツールが教師に与えられ、幼稚園から高校、さらには就職まで、一人一人の生徒に合ったカリキュラムを提供できるようになる。今後5年間で、適性検査だけでなく、テストの点数、出席状況、eラーニングプラットフォーム上での生徒のふるまいといった時系列データを用いて、各生徒について理解を深められるようになる。
IBMでは、既にクラスルームでの取り組みを始めている。米Gwinnett County Public School(グィネット郡公立学校)での研究プロジェクトにおいて、ビッグデータ解析とラーニング技術を長期的な生徒の記録の人口分析に活用する。このプロジェクトの目的は、学習傾向の類似性を見い出し、成績と学習上のニーズを予測。具体的な内容と効果的な指導方法を調整し、同学区の17万人の生徒一人一人の成績を改善して卒業率を向上させることにある。
地元での買い物がオンラインに勝る
オンラインストアには、消費者がWeb上で行う選択から学習できるというメリットがある。現在、ほとんどの実店舗はPOSから得られる洞察に限定されている上、ショールーミング(実店舗で商品を確かめ、オンラインショップで購入すること)の傾向から、価格のみで勝負するオンラインの小売店との競争は厳しさを増している。
そうした中、今後5年間で地元での購入が復活するだろう。洞察力に優れた小売店は、店舗の即時性と顧客との距離の近さを生かして、オンライン専門の小売店では真似できないような体験をもたらすことが可能になる。例えば、小売店はWatsonのようなテクノロジーを活用して、店員を店舗の全商品に通じているエキスパートにする。拡張現実などのテクノロジーと、Watsonをアプリケーション開発プラットフォームとしてオープン化するという計画により、IBMは消費者が店舗内でより快適なウィンドウショッピングや購入を体験できるようにする。
クラウドによってサポートされたモバイルデバイスを使用し、顧客の気になるものやソーシャルネットワークを共有すれば、小売店は消費者が最も欲する商品や必要性のある商品を正確に予測できるようになる。
距離的に近いだけでなく、複数の店舗があることから、買い物客の居場所にかかわらず、即時の店舗受け取りや配送など多様な選択肢を提供できるとしている。
健康維持にDNAを活用する
今後5年間で、ビッグデータ解析や、クラウドベースのコグニティブ・システムの進歩、ゲノム研究や検査における進歩が一体となり、世界中の何百万人もの患者に対して医師が正確にがんを診断し、個別化された治療計画を立てられるようになる。スマートマシンが、すべてのゲノム配列決定のアウトプットや、蓄えられた医療記録、出版物の広範な情報を徹底的に調べ、学習し、治療の選択肢に関する詳細かつ実用的な洞察をがん専門医に迅速に提供する。
IBMがヘルスケアパートナーと共同で開発しているのは、遺伝子に関する洞察を提供し、これまで患者に最適な治療方法を探すのに数週間から数カ月かかっていたところを、数分から数日まで短縮できるようにするシステム。これによって、脳卒中や心臓疾患のような症状に対して、DNA固有の個別化された治療の選択肢を提供する可能性をもたらす。
デジタルの番人がオンラインユーザーを保護する
今後5年間で、一人一人が専用の「デジタルの番人」に守られるようになる。これらは、委託された人やアイテムを重点的に保護するよう訓練され、新たなレベルのID盗難保護を実現する。このセキュリティは、状況データや過去のデータを取り込みながら、さまざまなデバイスで個人の身元を検証する。
現在、IBMでは、ネットワーク上のモバイルデバイスの行動を理解し、潜在的なリスクを評価するため、機械学習テクノロジーを使用しています。将来的には、セキュリティはより俊敏に、そして状況に即するようになり、データ、デバイス、アプリケーションをあらゆる角度から認識し、攻撃やID盗難の予兆と疑われる逸脱を見分けられるようになる。
都市が市民の生活を支援する
2030年までに、新興国の町および都市の人口が、都市人口の80%になる。2050年までには10人に7人が都市住民になると予測されている。
今後5年間で、よりスマートな都市では、人々が必要としていること、好むこと、行っていること、移動の仕方を、コンピュータが学習して理解し、何十億もの出来事をリアルタイムで把握できるようになる。
都市およびそのリーダーはいずれ、市民から自由に寄せられる新しい情報を基に、どの都市リソースがいつどこで必要になるかを把握できるという。
モバイルデバイスと社会とが関与することで、市民は都市のリーダーとの関係を築けるようになる。例えば、ブラジルでは、ユーザーがアクセシビリティに関する問題を携帯電話を使って報告し、障害を持つ人々が都市街路をより安全に移動することを可能にするクラウドソーシングツールについて、IBMが既に開発に着手している。ウガンダでは、UNICEF(ユニセフ)とIBMが共同でソーシャルエンゲージメントのツールを開発しており、若者が命にかかわる問題について政府およびコミュニティーリーダーとコミュニケーションを図れるようにしている。
2013年版の「IBM 5 in 5」
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1312/18/news071.html
─情報元: ITmedia エンタープライズサイト様─