スタートアップという言葉が日本でも定着し始めてきた。スタートアップのサービスは目新しいサービスに見えても、そのビジネスモデルは何種類かに分類することができる。そのサービスの事業領域の伸びがどれくらい見込めるかという点と併せて、そのビジネスモデルを本連載で紹介していく。
FinTech(金融系スタートアップ)特集第3弾は「賢いお金のアシスタント」をコンセプトに掲げるMoneytreeを運営するマネーツリー社長のポール・チャップマン氏に話を伺った。ちなみに同アプリはアップルによる「App Store of 2013」の最優秀アプリにも選ばれている。
■手入力の家計簿アプリとの違い
Moneytreeをすでに知っていた筆者は、家計簿アプリの一種だと考えていたが、そうではないとポール氏ににこやかに否定された。
「われわれは家計簿アプリを提供したいわけではありません。家計簿をつけることに慣れている人は、家計簿アプリとして使ってもらうのもありがたいですが、家計簿をつけることが面倒くさいというユーザーに、ぜひ使ってほしい」
Moneytreeは現金を何に使ったか入力する機能も提供しているが、コアな提供価値は銀行口座やクレジットカード、SUICAなどの情報を一括管理する機能にある。
「銀行やクレジットカードの情報を一括管理し、簡単なUIで自分の資産状況を確認できるアプリがあれば、自分でも使いたいと思い、Moneytreeの構想にたどり着きました」
Moneytreeを開くとファーストビューに入るのが右の画面だ。全資産、銀行口座、クレジットカード、電子マネーの現状を明快に把握できる。iPhoneを横置きにすれば、下の絵のように資産支出状況を月次で自動でグラフ化される。資産状況を一目で把握するには、これ以上ないUIといえよう。
クレジットカードやSUICAの引き落とし情報をカテゴリーごとに自動化して上記のようにワンクリックで確認できる。日常のほとんどの買い物がカード決済のユーザーにとっては、たまらなく便利だ。もちろん従来の家計簿アプリのように手動で現金を何に使ったか入力することも可能だ。
「家計簿をつけるのが面倒で挫折してしまった人。イージー&シンプルにおカネを管理したいユーザーに使ってほしい」
このイージー&シンプルさに病みつきになるユーザーは筆者の周囲でも少なくない。
■iPhoneのデフォルトアプリを想定したUI
シンプルなデザインが人気でもあるMoneytreeだが、アップル公認のApp Store of 2013の最優秀アプリにも選ばれている。カテゴリー別の最優秀ではなく、全カテゴリーの最優秀だ。アップル公認で2013年のすべてのアプリでナンバーワンだったことになる。
「アプリの設計に関しては、Moneytreeのような資産管理アプリがデフォルトでiPhoneにインストールされていたとしたら、どんなアプリだろうかと想像して設計しました。デフォルトでインストールされている地図アプリはシンプルで使いやすいですが、iPhoneが出る前はここまで使いやすい地図サービスはなかったはずです。アップルの思想に沿ったシンプルとは何かを考え抜きました」
世の中には「うちのアプリはシンプルだ!」と言っておきながら、さほどシンプルではないサービスが少なくないとポール氏は語る。
「アプリを使い始める際に、注意書きが長いサービスが比較的多い。Moneytreeは長い文章は極力簡略化し、読まなければならない文章はほとんどありません。小さな子供がiPadを自然に楽しむように、説明書不要でインストール後、すぐに使えるユーザー体験の提供に努めました」
とにかくイージーでシンプルなデザイン設計を心掛けた。スウェーデン出身と日本人のデザイナー2人でデザインを設計した。ちなみにポール氏はオーストラリア出身。日本のスタートアップだが、社員は多国籍にわたる。
■イージー&シンプルでより幅広いユーザー層を獲得?
Moneytreeは2013年4月の提供開始。取材時の2014年3月時点では提供開始から1年経っていない。アプリのダウンロード数は広告などをほとんど打たずに35万まで伸ばしてきた。
「法人向けの資産管理サービスもありますが、われわれは個人向けにフォーカスしています。資産管理を自動化してシンプルに生活したいユーザーをターゲットとしています。家計簿という枠にとどまらず、ライフスタイルに寄り添うアプリを目指しています」
年齢層や収入でターゲットをセグメントはしない。シンプルに資産を管理したいユーザーがターゲットだ。他の家計簿アプリのユーザーは男性比率のほうが高いが、Moneytreeは男女半々というのも特徴的だ。シンプルさが受け、家計簿に挫折した女性がハマっているのかもしれない。
まだマネタイズは始めていないが、経費精算などのプラスαの付加価値を提供する手頃な価格での月額課金を想定しているという。
筆者は海外の家計簿アプリを2年以上利用しているが、1度慣れてしまうとほかのアプリにスイッチしにくい。そしてSNSのように資産管理サービスは複数使うイメージも湧かない。家計簿アプリではなく、家計簿に挫折した人にMoneytreeは向くだろうが、実際には、ZaimやDr.Walletのような家計簿アプリやマネーフォワードのような資産管理ツールと競合になると筆者はとらえている。
「同じ領域に複数のサービスがあり、競争するのはいいことです」と、ポール氏は競合を歓迎する。
あなたは、資産管理サービスは何を使っているだろうか? Moneytreeか、マネーフォワードか、はたまたZaimか。周りに声を掛け、どのサービスをなぜ利用しているか語り合うと、新たな発見があるだろう。SNSのように外部ネットワーク性が効く分野ではないので、複数のサービスが生き残っていくと考えられる。誰しもがおカネを管理する必要はあるだろう。まだどのサービスも使っていない読者がいれば、いずれかを使い始めてみることをお勧めしたい。
ひとつ言えるのは、イージー&シンプルをコンセプトとしたMoneytreeは幅広いユーザー層に受け容れられるポテンシャルがあるということだ。家計簿アプリ領域ではZaimがユーザー数100万人を超えているが、MoneytreeがZaimのユーザー数規模に追いついていくことは想像に難くない。
筆者は取材を通して、従来のアプリからMoneytreeに少し心変わりしそうになった。
【梅木雄平のスタートアップチェック (各項目を1~5で採点)】
●経営陣:3.7 ポール・チャップマン氏の笑顔がすてきであり、ユーザーに愛されるいいサービスを作りたいという意気込みが伝わる。
●市場性:4.0 資産管理自体は高校生から高齢者まで対象利用者層は幅広いといえる。1サービスが顧客を独占する市場にはなりにくいだろうが、対象利用者層が広いため、1サービス当たりのユーザー数は数百万人単位後半まではスケールする。
●利益率:3.4 月額課金でどこまでスケールするか見えにくい。経費精算以外の有料会員の提供価値次第で有料会員化率が変動するため、現状では最低ラインで見積もっておく。
●競合優位性:4.2 イージー&シンプルなコンセプトとUI設計は、より多くのユーザー層を獲得しやすく、利便性も高く、他サービスへのスイッチングコストを高める。
●海外展開力:3.0 当面は国内市場に注力するということで、判断は据え置き。
●総合点 :3.7 この分野では後発のスタートアップといえるが、アプリのクオリティの高さと市場性から、ユーザー数を2~3年で数百万に伸ばすことは想像に難くない。有料プランでどれだけ売り上げを伸ばせるかが課題。
●予想EXIT:3~5年以内の売却
●推定時価総額:50億円前後
●推定根拠:有料会員数のアップサイドは50万人程度と推測。上場して数百億円単位になるビジネスではない。アップルに売却し、iPhoneのデフォルトインストールアプリになることがベストシナリオでは?と取材に聞いたが、その考えは否定された。とにかくいいサービスを提供したいという思いが最優先である。
http://news.livedoor.com/article/detail/8876155/
─情報元:東洋経済オンラインサイト様─