浮き沈みが激しい発泡酒市場で、12年のロングセラーを続けている商品がある。キリンの「淡麗グリーンラベル」だ。売れ続けている秘密はどこにあるのか? マーケティング担当者へのインタビューから浮かび上がったのは、ロングセラーとなるために不可欠な「リニューアル」に対するこだわりだった。
2002年の発売から12年続くロングセラー
73億本、飲まれてきた
毎年のように新ブランドが誕生し熾烈な競争が繰り広げられるビール業界。その中で、2002年の発売開始から昨年12月までの累計販売量が350ml缶換算で約73億本、350ml缶(122㎜)を積み上げると月まで1往復以上もの長さになるほど、ロングセラーとなっている発泡酒がある。キリンビールの「淡麗グリーンラベル」だ。
ロングセラー商品となり得た理由を「淡麗グリーンラベル」の販売戦略を手掛けるキリンビール マーケティング部商品担当の増田秀史さんは
「第1に、『おいしい糖質70%オフ』(※)という明確な基本コンセプトを持ち、それを頑なに守り続けてきたこと。そして第2に、守るべきものはしっかり守りつつ、時代の変化とともに、変えるべきものはきちんと変えてきたこと。この2つが大きな理由だと思います」と話す。
「第1に、『おいしい糖質70%オフ』(※)という明確な基本コンセプトを持ち、それを頑なに守り続けてきたこと。そして第2に、守るべきものはしっかり守りつつ、時代の変化とともに、変えるべきものはきちんと変えてきたこと。この2つが大きな理由だと思います」と話す。
確かに、「淡麗グリーンラベル」の味の特長である爽快感や「糖質70%オフ」(※)という機能性が多くの消費者に支持され、根強いファンを獲得したからであることは間違いないだろう。しかし、数多くの新ブランドが生まれては消えるビール業界の中で、ロングセラーになりえたのは、何らかの特別な理由があるはずだ。
それを読み解くヒントは、淡麗グリーンラベルが繰り返し行ってきた「リニューアル」にある。リニューアルの成功を積み重ねることが、ロングセラーになるための条件だからだ。
ここで、発売以来、ほぼ3年おきに行われてきた「淡麗グリーンラベル」のリニューアルの姿を見てみよう。
一見すると、あまり変わっていないように見えるが、実はそれにも深いワケがあった。
新商品の開発よりも難しい
「リニューアル」を成功させるための苦悩
「あまり変わっていないように見えますか。でも、淡麗グリーンラベルはマイナーチェンジで済ませているわけではないんです」と増田さんは話す。
キリンビール
マーケティング部・商品担当
増田秀史氏
淡麗グリーンラベル以外のブランドも含め、リニューアルのプロジェクトを4度担当。ワインバイザーでもある。
マーケティング部・商品担当
増田秀史氏
淡麗グリーンラベル以外のブランドも含め、リニューアルのプロジェクトを4度担当。ワインバイザーでもある。
「だいたい3年に一度リニューアルしてきていますが、3年と決めてやっているわけではない。私たちは日々、『お客様はどこに不満を持っているのか?』について調査しています。結果的に3年くらいで、今のお客様の嗜好と現状の淡麗グリーンラベルが"ズレてきたのではないか"ということが売り上げやお客様の反応に表れてくる。それを修正するために、リニューアルを行うんです」
例えば、消費者が味に軽やかさを求める流れがあり、それに基づいた商品になっていたとする。あるとき香りが高い商品がヒットすると、一部の消費者の嗜好がその方向へ向かい、全体の消費者の嗜好も少しずつ変化していく。そこで「ズレ」が生じるというのだ。
だが、それを修正すべき方向性、つまり、リニューアルの方向性を見つけることが何よりも大変な作業になる。
リニューアルに掛ける時間は半年から1年。嗜好の変化にマッチすると思われるサンプルを50~100パターンもつくり、醸造するビール職人からブランド担当、営業担当や宣伝担当など大勢の社員による試飲を重ねて「これはいける」という2~3種類に絞り込む。その後、実際に消費者を招いたグループインタビュー、大掛かりな定量調査など、いくつものリサーチを経て、ようやく「新しい味と香り」「新しい顔となるパッケージ」の答えが出るという。
多くの関係者、多くの工程が入り交じる複雑な作業だが、最初から最後まで貫かれているのは「お客様はどう感じるか」という点だ。
とはいえ、ロングセラー商品の味と香り、パッケージを変えるには相当な勇気がいる。変化がプラスになればいいが、変わったことによってこれまでのファンが離れてしまう恐れもある。まっさらな新商品を開発するよりも、むしろ、味や香り、イメージなどが認知され尽くした商品をリニューアルするほうが難しい。
増田さんは淡麗グリーンラベルのリニューアルを担当することになった際に「大胆に変えたい」と意気込んでいたという。外から見ていたときに「味はこんな風に変えたらいいのに」「パッケージもこうしたらいいのに」と考えていたものがあったからだ。だが、担当者になってみて、「お客様の声に耳を傾けると、自分の仮説は見事に打ち砕かれた」。
「ロングセラーの商品なので、いい意味で期待を裏切るのはいいが、悪い意味で裏切るのは許されない。ブランドはあくまでもお客様のもの。変えたことで、お客様に『らしくない』と思われることだけは絶対に避けなければなりません」(増田さん)
リサーチと修正を徹底的に繰り返し、「これなら『淡麗グリーンラベル』の評価を損なわず、むしろ愛され続ける商品になる」と確信できないと、どれだけ作業が発生していたとしても「リニューアルは見送り」となることまであるという。前出の淡麗グリーンラベルのリニューアルの歴史は、そうした積み重ねが全て表現されたものなのだ。
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http://diamond.jp/articles/-/54769
─情報元:ダイヤモンド・オンラインサイト様─