2016年10月26日水曜日

伊藤忠が不夜城から「朝型勤務」に変わった理由

純利益の大躍進や巨額投資だけでなく、いわゆる「働き方改革」でも、伊藤忠商事はたびたび注目されている。「岡藤改革」とも呼ばれるこれらの改革は、どのような考え方を基に生まれたのだろうか?



伊藤忠の経営改革の基本理念
「か・け・ふ」の思想とは?

 伊藤忠商事の社長応接室には、「か・け・ふ」の大きな墨書を飾っている。私が商売の三原則だと考える「稼ぐ」「削る」「防ぐ」の頭文字だ。「か・け・ふ」は、2010年に社長に就任して以来の経営改革の基本思想であり、総合商社ナンバーワンの利益を生み出すための原動力になったものである。
 「稼ぐ」は、社員が伸び伸びと働き、稼ぎを増やすための方策。「削る」は無駄を排して仕事を効率的にする方策。そして「防ぐ」は、事業リスクをミニマイズし、安定した収益構造を築くための方策だ。例えば稼ぐために取られた方策が、リスクの低減にもつながるように、制度や環境は、「か・け・ふ」それぞれに絡み合うような形になるよう、改革を進めてきた。
 前回(記事はこちら)述べたCITICへの巨額投資のような、「稼ぐ」に向けた前向きな施策が注目を集めやすいが、私は「削る」と「防ぐ」も非常に重要だと考えている。「か・け・ふ」は、「稼ぐ」を頂点に据え、「削る」と「防ぐ」が底辺の2点で支えるという、三角形をイメージしている。「削る」と「防ぐ」を強化することで低重心型の経営を生み出し、営業の現場力を強め、攻めの姿勢を促す狙いがある。
 ただ、私は決して大上段に構えた経営戦略を練るタイプの経営者ではない。これまで手がけてきた改革の一つひとつはすべて、これまで現場で培ってきた「商売感覚」に照らし合わせて方向性を定めてきた。
 私は繊維部隊に所属し、大阪勤務が長かった。そして、たまに東京本社に出張で来ると、「おかしいな」と感じる習慣がたくさんあった。たとえば社員の出社時間。伊藤忠も同業他社と同じく、フレックスタイム制をとっていた。コアタイムは午前10時から午後3時。従って、多くの社員が午前10時に出勤し、夜遅くまで働いていた。
しかし、特に繊維や食料部隊の国内のお客さまは、朝が早い会社が多い。午前8時半出勤という会社は、珍しくもなんともないのだ。朝一番に「荷物がまだ来ていない」とお問い合わせをいただいても、「担当者が10時にならないと出社しません」と返事をするようではいかがなものか。伊藤忠を含め、総合商社大手の給与水準が高いと言われている。30歳そこそこで1000万円近くももらっているケースもあるのに、朝電話してもいないのでは、お客さまから苦々しく思われて当然だ。
 そこで私は社長就任後、朝型勤務を取り入れようと決めた。お客さまへの対応はもちろん、夜にダラダラ残業をするよりも、朝早く仕事をするほうが効率的であると考えていたからだ。
 担当部署からは「長年フレックスで来ましたから、きっと労使で揉めます」と言われたため、まずは非組合員である課長クラス以上から、朝9時に出社するように促してみた。当然ながら、課長が9時に来れば、部下たちだって9時に来るようになる。半年も経てば、ほぼ全員に9時出社が定着した。その後、労働組合とも話し合いをし、正式にフレックスタイム制を廃止することができた。
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─情報元:ダイヤモンド・オンラインサイト様─